鹿児島地方裁判所 昭和43年(行ク)2号 決定 1968年8月22日
申立人 古屋能子 外四名
被申立人 鹿児島入国管理事務所主任審査官
主文
申立人らの本件申立を却下する。
申立費用は申立人らの負担とする。
理由
申立代理人は、「被申立人か申立人らに対して昭和四三年八月二〇日付で通告した琉球海運「おとひめ丸」からの下船拒否の行政処分は仮にその執行を停止する。申立費用は被申立人の負担とする。」との裁判を求める旨申立てたが、その理由とするところは別紙記載のとおりである。
よつて執行停止の理由があるかどうかについて検討するに、本件記録及び当事者の意見によれば、申立人らは昭和四三年八月二〇日午後零時四〇分頃、沖縄渡航を終えて琉球海運「おとひめ丸」にて鹿児島港に到着し下船を待つ間、被申立人から総理府発行の身分証明書の呈示等法定の帰国手続を要請されたのであるが、申立人らは右証明書を所持しながらこれを呈示するのを拒んだため帰国の証印を受ける等帰国手続を終らないうちに再び沖縄向け同船が出港したので上陸できなかつたものであることか疏明される。
ところで、行政庁の処分の執行停止をなすためには、その処分等によつて生ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要がなければならないのであるが、出入国管理令第六一条、旅券法附則第七項によると沖縄を含む本邦外の地域から本邦に帰国する日本人は有効な旅券ないしこれに代る所定の身分証明書を所持し、上陸する出入国港において入国審査官から帰国の証印を受けなければならない旨明定され、右関係法令は日本人であることの確認その他行政上の必要から出たものであつて、ただちに違憲無効とは即断しがたいのであるから前段疏明事実によつて明らかなとおり申立人らが沖縄渡航のための身分証明書を現に手許に所持していると認められる以上、その際特段の支障もなく容易に直ちにこれを呈示し日本人たることを証明しうる状態にあつたもので、若しその手続さえなせば遅滞なく下船し得べき状態に在つたというべきである。果してそうだとすれば申立人ら主張の如き処分にあつたとしても、申立人らは結局自らの意思でこれを呈示することを拒み帰国の証印を受ける手続に応じないものというべきで、かかる場合は被申立人の本件処分の執行を停止すべき緊急の必要を認めるのは相当でない。よつて申立人らの本件申立は理由なきものと認め、申立費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 松本敏男 藤田耕三 三宮康信)